米シリア攻撃で北からの核攻撃が現実に-2 金正恩の最後は最悪のシナリオ

〇意外にも北朝鮮は孤立していない

 さて、今回のシリア攻撃を受けて、北朝鮮問題はどのように進展するだろうか。
 北朝鮮外務省は今回のミサイル攻撃について、8日夜、国営メディアを通じ、「明白な侵略行為で絶対に容認できない」と強く非難し、「(北朝鮮がもつ)核武力がアメリカの侵略策動を粉砕し我が国を守る。核武力の強化は極めて正しい選択だった」として、核およびミサイル開発をさらに推進する方針を強調した。

 これは、北朝鮮にとってシリアは友好国であるという背景もある。
 実は、驚く人も多いかもしれないが、北朝鮮と国交のある国は世界中に多く存在し、中国、ロシアを筆頭に、東南アジア諸国、アフリカ諸国にとどまらず、イギリス、ドイツ、オーストリア、スイスなど西側先進国も多く国交を有しており、多くの国に北朝鮮の在外公館が存在する。むしろ国交を持ってない国を挙げる方が早く、こちらはアメリカ、日本、韓国以外ではフランス、イスラエル、サウジアラビア、ボリビア、パラグアイなどに限られるようだ。(出典Wikipedia)
 国際社会の表舞台に立つことはないが、各国と二国間協議を地道に進めてきた外交政策はしたたかで侮れない。

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緑色:国交あり、灰色:国交なし、赤色:国交断絶
(出典:Wikipedia)

 北朝鮮とシリアは1966年に国交を樹立した。共にアメリカに対抗するために軍事面での結びつきが強く、北朝鮮からシリアへの核・ミサイル分野での技術協力や武器輸出の疑いが絶えず指摘されてきた。
 2007年のイスラエルによるシリアの核施設への空爆の翌年、アメリカ政府はシリアの核施設の建設に北朝鮮が協力していたとする証拠として、両国の当局者がシリアで面会した際に撮影されたとする写真を公開している。
 アメリカ国防総省は、去年、北朝鮮の軍事力を分析した報告書の中で、北朝鮮が国連安全保障理事会の制裁決議に違反して、シリアに弾道ミサイル関連部品などを輸出し続けていると指摘している。
 一方、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、アサド大統領との間で両国の記念日のたびに祝電を交わしている。北朝鮮の国営メディアは、4月6日 、シリアのアサド政権の与党バース党の創立記念日に合わせアサド大統領に向け祝電を送り「共同闘争の中で結ばれた両国の友好と協力関係は、引き続き強化される」と伝え、その後、アサド大統領から金委員長に宛てて、「両国関係が今後さらに強固になっていくものと確信する」という電報が届いたことを明らかにし、北朝鮮とシリアの伝統的な友好関係を強調している。(NHK NEWS WEBより引用)

〇中国は制裁決議を履行してない

 ここで、国力も弱体化し貧困に喘いでいると思われる北朝鮮がシリアに技術供与できる余裕があるのはなぜかという疑問が起こる。
 2006年、国連安全保障理事会で北朝鮮が行った核実験に対する制裁決議が採択されたが、北朝鮮はその後も、2009年、2013年にも核実験を繰り返し、2016年に入り1月、9月と繰り返し実施したことで、同理事会では制裁を強化する決議案を全会一致で採択した。その内容は、北朝鮮の主要な収入源である石炭輸出に上限を設けることに加え、鉱物資源の輸出禁止、彫像制作の販売禁止なども盛り込まれた。これにより北朝鮮が武器開発に必要な外貨収入が年間8億ドル減少することになり、北朝鮮の輸出収入全体の25%を失うことになるはずだった。外交筋によると北朝鮮産の石炭の唯一の輸入国とみられる中国は、決議に基づき前年比で約7億ドル減らす見通しを示していたが、そのような制裁を受けても一向に挫けることなくミサイル開発を続ける北朝鮮の現状の裏には、友好関係にある中国が決議通りの制裁を本気で実施していないことが要因であるとの見方がある。業を煮やしたアメリカは、今回、中国の習近平国家主席の訪米に合わせ、制裁強化を強く迫ったと見られている。

〇北朝鮮はレアアースなど鉱物資源の宝庫

 北朝鮮に制裁が効かない理由はもう一つある。
 前述したように、北朝鮮は世界の中で孤立してはいない。多くの国と国交を樹立し、目立たないように貿易取引を行って外貨を獲得しているのだ。その貿易品目は石炭以外では、豊富な鉱物資源が挙げられる。
 実は北朝鮮は、世界にまれに見るレアメタルや鉱物の資源大国だったことが近年判明したのだ。
 韓国統計局が発表した「北朝鮮主要統計指標」によると、2008年時点で北朝鮮の地下鉱物資源は総額6兆4千億ドル。内訳は金2000トン、鉄5000億トン、マグネサイト60億トン、無煙炭45万トン、銅290万トンなど。この他にもウラン、マグネサイト、モナザイトなども豊富だ。
 北朝鮮の採取工業省の次官は、「わが国の科学者、技術者は近年、資源採取探査事業を力強く展開し、埋蔵量が豊富な希有金属を探し出すのに成功した」と述べ、「その中にはモリブデン、ニオブ、ジルコニウム、ストロンチウム等がある」と明らかにした。ニオブ(Nb)は高圧容器やロケットエンジンの製作に欠かせない物質で、ジルコニウム(Zr)は原子炉材料としての需要が多い。また「ストロンチウムやチタンの埋蔵量もわが国に豊富だということが科学的に証明された」と主張し、これらに対する本格的な開発事業が進められる方針を示した。
 国交のある西側先進国としては、のどから手がでるほど欲しい資源であるが、国連安保理決議の手前、公然と取引するわけにはいかない。そのため、第3国を介してのアンダーグラウンドの取引となるだろうが、いずれにせよ、北朝鮮は外貨を獲得し続けることができる図式にあるのだ。
 これらの資源開発は、このままでは大半をロシアが握ることになることは必至だろう。
そのため、西側諸国の多くは、できるだけ早く北朝鮮が屈服し、公平な国際秩序の下で公然と資源開発に乗り出したいと考えているだろう。おそらくアメリカの北朝鮮へのミサイル攻撃、あるいは侵攻は多くの国が支持すると思われる。

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北朝鮮の鉱物資源


〇後に引けないアメリカのプライド

 アメリカにとっても北朝鮮の核開発は看過できないところまで迫っている。中国やロシアが核兵器を持つのとは次元が違うのだ。中国やロシアはどれだけ多くの核兵器を持っていたとしても、アメリカ本土へ向けて発射することはまず考えられない。発射したときは世界が滅亡することを理解しているからだ。
 しかし、北朝鮮が核ミサイルを完成させた場合、これは友好国シリアにも輸出される可能性が高い。その場合、テロリスト集団の手に渡る可能性がゼロではなくなる。テロリスト集団は、テロ自体が目的であることから、ためらわずにアメリカに向けて核ミサイルを発射することだろう。たとえ報復を受けたとしても、世界中にネットワークを確立したテロ集団をすべて殲滅させることは不可能だ。そのため、非常に大きな脅威となるのである。

 これを阻止するためには、北朝鮮に核・ミサイル開発をやめさせる以外に方法はない。しかし、今の金正恩体制では、いくら話し合いを持ったとしても、核・ミサイル開発に歯止めをかけるのは難しいだろう。かれらはオバマ政権がもたもたしている間に、世界中にネットワークを構築し、多少の経済制裁には影響を受けない体制を構築しているからだ。だとすれば、金正恩体制そのものを倒すしか選択肢はない。

 戦術的には、シリアを攻撃したのと同様に巡行ミサイルで狙い撃ちすれば可能かもしれないが、明らかに他国への侵攻であることから容易ではない。シリア攻撃のケースでは、化学兵器使用に断固とした態度を示すという大義名分があったため攻撃できたが、北朝鮮の場合はこれがない。ロシアのウクライナ侵攻と同じことになるので、本音では支持したい同盟諸国といえども国際秩序という建前上は非難せざるをえない立場にあるからだ。

 では、アメリカにとって最も期待する大義名分のシナリオとはいかなるものだろうか。
 それは、偶発的な衝突が大規模な紛争に発展するケースであろう。北朝鮮が発射したミサイルが軌道をそれて韓国国内に落下してもいいし、国境で盧溝橋事件のように小競り合いが大規模な衝突に発展してもよい。韓国が報復として北の攻撃のためにミサイルを撃ち込めば、北は長距離砲でソウルを狙い撃ち、またはスカッドミサイルで応酬するというシナリオだ。ソウル市内の高層ビルを一発のミサイルが直撃しさえすればよい。残念ながらソウルで多くの犠牲者が出ることは避けられないだろうが、そうなれば米軍は即座に介入に動くことができる。同盟国の戦闘状態突入に対し、集団的自衛権という大義名分を行使できるからだ。おそらくこのシナリオはトランプ大統領の選択肢のひとつとしてテーブルの上に既にあることは間違いない。


〇金正恩がとるかもしれない最悪の選択肢

 しかし、金正恩にとっては、これは最悪のシナリオだ。金正恩が目指すものは、テロ国家の樹立などではなく、現体制の維持強化のただ一点だろう。国内にいるかぎり、絶対君主の神として君臨し続けることができるため、これほど居心地のいい場所は他にはないからだ。体制維持のためにはアメリカという超大国と二国間協議をすることが重要だという北朝鮮の外交路線はゆるぎない。六者協議など足並みがそろわない会合に出ても、得られるものはないばかりか、各国から袋叩きにあうことが必至なためだ。二国間協議であれば、豊富な資源開発というカードも切ることができる。
 しかし、アメリカにとっては、二国間協議に応じることは、たった一発の弾道ミサイルに怯えて北朝鮮の言いなりになったということなので、超大国のメンツが到底許さない。国内からも政権に対する非難が沸き起こるだろうし、なによりトランプ大統領自身のプライドが許さないだろう。
 金正恩とアメリカ、それぞれの立場とメンツのため、落としどころが見つからないのが現状なのだ。


〇ルーマニアに見る独裁者の末路

 さて、アメリカが北朝鮮に軍事介入を行った場合、その後のシナリオはさらに悲劇的である。
 圧倒的な戦力差で北朝鮮にはまず勝ち目はない。とすれば、金正恩が捕えられるのは時間の問題だ。その後、暫定政権が樹立されることになるが、これまで粛清により絶対君主の体制を維持してきた金正恩に対し、その報復として暫定政権から糾弾される機運が高まり、いずれは処刑されることになることは容易に想像がつく。ルーマニアのチャウシェスク大統領の悲惨な末路と同じ道を歩むことになるのだ。だからこそ金正恩は現体制維持に固執しているのである。
 どうせ死ぬのであれば、逆賊として処刑されるよりは、攻めてくる敵国に一矢報いた英雄として死ぬ方がいいと考えるに違いない。その一矢の報い方として最も効果の高いものが核弾頭を装備した弾道ミサイルの発射だ。残念ながら、アメリカ本土を狙い撃ちするまでの完成度はないため、短中距離弾道ミサイルが使用される確率が高い。その場合、最も近いソウルが火の海にまずなるとして、日本本土への着弾もかなり高い確率で想定される。
 完成度が高く実践配備されているノドンは、重い核弾頭を搭載すれば東京までぎりぎりの距離であり、確実に東京を狙う場合はテポドンになるが、この発射には準備と手間がかかるため、発射準備に入った段階で偵察衛星に察知されてしまう。移動式発射台から打てる比較的射程の長いムスダンを使って確実に届く範囲の関西の大都市を狙うことが大いに考えられる。金正恩が死した後も英雄として名を残すとしたら、在日駐留米軍基地を狙うよりも、できるだけ大きな被害をアメリカ同盟国にもたらすことを選択するだろう。

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北朝鮮の弾道ミサイルラインナップ(YOMIURI ONLINEより)

 北朝鮮にとって最後の選択肢となるこのシナリオも、金正恩側のテーブルの上には乗っているに違いない。あらゆる選択肢を検討しているのは、トランプ大統領だけではないだろう。

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